貴方と二人で話せる事
それがこんなに嬉しいなんて
俺は今まで知らなかったんだ
こんなに大切な時間があるなんて
もっともっと
貴方と話がしたいな
俺も㋮のつく異界人! -06-
ギュンターとこっちの世界の事について暫らく話していると、
軽く汗を掻いた有利とコンラートが帰って来た。
手には野球ボールのような物が握り締められていた。
元気そうに活動している俺の姿を見て有利は至極嬉しそうに笑ってくれた。
「有利お帰りなさい。」
「!!お前もう起きても平気なのか?」
「オゥ、全然平気。元サッカー部エースをなめるなよ?」
すっかり調子に乗って有利の可愛らしい頭をしっかりホールドして、
空いた方の手でわき腹をこれでもか!という位にくすぐってやった。
有利は目に涙を溜めて一生懸命止めようと頑張っている。
なんて可愛らしいんだ…
「あははっ、―ギブギブ!!ひぃぃ―おれ酸欠で死んじゃうよっ!」
「分かればいいのだ!」
何を分かれば良いのだろうか…言った本人でさえ突っ込みを入れたが、
突然鳴り響いた有利の腹の虫にその場の雰囲気は一気に夕食へと傾いた。
もう腹がなった瞬間の有利の恥ずかしそうな顔と、ギュンターの必死の形相…
これと言ったらとても面白くて声を上げて笑った。
ギュンターは何処までも有利一途らしい。
「ハハ、おれお腹空いてたんだよねー。晩ご飯は?」
「あぁ陛下!!今すぐ御用意致しますのでお待ち下さいっ!」
そう言ってギュンターは旅荷物が入っているであろう鞄らしき物に近づき、
中身をぶちまけながら晩飯となる食料を探していた。
コンラートは玄関のドアノブに手をかけた。どうやら外へ向かうようだ。
「?コンラートさん何処行くんですか?」
「え?あ、本当だ!何処行くんだよ。」
「先程の子供達に夕食に誘われましてね。ちょっと行って参ります。」
「一緒に食べないんですか?」
「すみません。ちょっと行って来ます。」
「そう…」
コンラートはそう言って、部屋を後にした。
その時は別に何とも思わずにコンラートを見送ったが、
俺たちはそのコンラートを物凄く羨む事になった。否…寧ろ恨んだかも。
だってご飯が硬いのなんのって!!靴の皮、バリバリに乾燥したパン、
そしてこれまた噛めそうもないドライフルーツだ。
どうしてだろう…水でふやかすとかいう考えは無いのだろうか?
というか靴の皮ってどうよ!!
「俺って繊細だから、こんなの食えないよ!」
「何処が繊細なんだよ、何処が。」
「何でこんな硬いんだよー!!」
「これは軍用の携帯食ですので、この様に乾燥しているんです。」
軍用携帯食でもこの硬さはないだろうと、
食欲の萎えた俺は、食べる事を放棄した。
有利は育ちがいいので残すなんて事はしないようだ。
それにしても頑張って食うなぁ…俺は面倒が嫌いなんで余計かな??
「はぁ〜、俺コンラートさんと一緒に行けばよかった。」
「おれもそっちに行きたいよ!」
「うんうん、俺コンラートさん探して、一緒にご馳走して―
「いけません。この村の住民は人間ですよ、
人間の作ったものなど召し上がって、お身体に障ったらどうなさいますか。」
ギュンターは余程人間の事が信用出来ないのか、
俺が話している途中に割って入って否定をした。
ちょっとムスッとした俺にギュンターは怯む。
俺は今お腹が空いていて、少し…可也?機嫌が悪いのだ。
「だ〜いじょうぶだってぇ〜。俺丈夫だし。」
「おれ人間だから平気だって。」
「いいぇ!連中が不届きなことを企まないとどうして言い切れます?
陛下と様のお命を危険に曝すようなことなど、
このギュンターにはとてもできません。」
必死の形相で詰め寄るギュンターに俺は怖気づき、仕方なく
途轍もなく硬い食料たちを少しの腹の足しになるように食べた。
口がしんどくなった頃にはもう諦めてしまったが。
そして俺たちが寝る仕度をしているとコンラートが帰って来た。
しかし帰って来たかと思うと、報告をして直ぐに外へ出て行ってしまった。
寝具の違いを嘆いている有利と、説明をするギュンターの会話を聞いていると、
どうやらコンラートは俺たち…
否、有利の為に外を見張っていてくれているそうだ。
可哀想に…コンラートは寝る暇があるのだろうか???
+++++
物音がしなくなって、どうも眠れない俺は、こっそりと寝袋から抜け出した。
隣で幸せそうに涎を垂らしながら眠っている有利を起こさない様、
慎重に慎重に、物音を立てないように部屋から出た。
ギュンターは疲れて眠ってしまったのか、机に突っ伏していた。
風邪をひいてはいけないと思い、
その辺に落ちてあった毛布をそっとかけてやった。
俺は、少し夜風に当たりながら散歩をしようなんて考えながら、
玄関のドアノブを捻り、外へと踏み出した。
外はとても寒くて、ブルッと身震いをしてしまった。
玄関の扉をそっと閉め、一歩踏み出そうとした瞬間声を掛けられた。
「何処へ行くんですか。」
「うわっ!!…ムグ…」
俺はコンラートが外で見張りをしているなんて事忘れてしまっていて、
物凄く驚いて声を挙げた。
だって声を掛けられるなんて思ってもみなかったからだ。
コンラートはそれに素早く反応して、俺の口をその大きな手で塞いだ。
ちょちょ…ちょっと待て!近い!近すぎるよ!!心臓の音がバクバク煩い。
「んーんー!!」
「しっ!大きな声を出さないで。陛下が起きてしまう。」
俺はコクコクと何度も頷き、コンラートは漸くして俺を解放してくれた。
恥ずかしさできっと顔が赤いだろうけど、
光もなくとても暗いので気付かれてないだろう。
俺は息苦しさを整えようと、数度深呼吸をした。
新鮮な空気がとても気持ちがいい。
「すみません。急にあんな事をして。」
「へっ!?あ…うん…」
「で、こんな時間にどうなさったのですか?」
「えっと…眠れなくて、それで少し散歩でもしたら眠れると思って…」
俺が散歩と言ったあたりから、少しコンラートの顔が怖くなったので俯いた。
何も悪い事を言ってないよな、と心の中で自分に何度も問いかけ、
やっぱり悪い事なんて一つも言ってはいないと思い顔をあげた。
しかし、コンラートの顔は怒っている。何故…
「あ…あの…コンラートさん?」
「こんな時間に外に出るなんて危険です。さぁ、中に入って。」
「危険?なんで?散歩に行くだけじゃないか。」
「様は双黒です、何者かに狙われでもしたら…それに…」
「それに?」
「いえ、何でもありません。」
コンラートは急にそっぽを向いた。確かに此処では双黒は珍しく、危険が高い。
前世の記憶が正しいのならば、それは素晴らしく価値のある事だ。
理由がそれだけなのであれば、俺は納得しただろう。でも…
コンラートはその後何を言おうとしたんだ?
分からない…他に何か心配があるのだろうか。
考えても如何しようも無いので、俺は考える事を放棄した。
コンラートは危険だと言うが、眠れないのだから、少し散歩はしたい。
身体を動かせば眠くなるかも知れないし…
俺が悶々考えているとコンラートが溜息を零した。
「仕方ありませんね。少しだけですよ。」
「いいの?」
「ただし、俺も同伴しますが、宜しいですね?」
思ってもみないその台詞に、俺の心は跳ねた。
好きな人と一緒に歩く事ができるなんて。コンラートは有利だけに優しい、
そう思っていたのに、俺にまで付き合ってくれるなんて…
俺は嬉しくなって精一杯の笑顔でコンラートに応えた。
するとコンラートも微かに微笑んでくれた気がしたが、きっと気のせい。
俺たちは肩を隣にフラフラと散歩を始めた。