話せるだけで幸せ
そう思っていたのに
人の感情って
どうしてこうも
貪欲なのだろうか…
あんな台詞聞きたくなかった
俺も㋮のつく異界人! -07-
俺とコンラートは、光の少ない夜の闇の中を散歩していた。
眠れないから少し散歩でも、と思ったのに…
コンラートを隣に散歩が出来るなんて俺は超幸せだった。
こんな浮き浮きとした心で、俺は足取りも軽くコンラートより、
遙か先を歩いていた。そりゃあもう、スキップでもしたい気分で。
「様、あまり先を行かれますとお供の意味が無いのですが…」
後ろからコンラートの少し呆れたような声が聞こえてきた。
それもそうだ、俺はそう思いコンラートを振り返り、俺に追いつくのを待っていた。
本当に幸せだ。この幸せが、何時までも続けばいいのにと俺は思った。
「えへへ、ゴメンナサイ。」
「いえ。」
また肩を並べて歩いていたんだけど、どうも俺はそれだけじゃ足りなくて、
黙っているコンラートに話しかけた。だって、好きなのに、まともに喋ってない。
まぁ仕方のない事なんだけど…
「ねぇコンラートさん、コンラートさんは好きな人とか居ないの?」
「?どうしたんですか急に。」
「え?うぅん…なんとなくかな?別に応えなくてもいいよ。」
俺が聞くと、少し遠くを見つめるように顔を上げた。
こことは違う…遠い過去を見つめているような…そんな儚げな感じだった。
少々考えてからまた俺に向き直り口を開いた。
「そうですね。大切な人が一人居ました。」
「居た?過去形??今は??」
「えぇ、昔俺が居ない間に彼女は亡くなってしまいました。」
「…ごめん。」
「気にしなくても大丈夫ですよ。」
そう言ったコンラートの顔はとても悲しそうに見えた。
俺は昔の彼の気持ちを確かめる為にあんな事を聞いたのだが、
こんな悲しい顔を見たい訳じゃなかったから少し後ろめたかった。
でも…どっちの事なんだろうか?俺…エレナーデも、そしてもう一人も…
そう…確かジュリアだ。二人共コンラートが戦に出向いている時に死んだんだ。
確か先に死んだのはジュリアで、エレナーデもその直ぐ後で死んだんだ。
「さぁ、大分時間も経ちましたし、そろそろ戻りましょう。」
「はぁ〜い。」
そろそろ眠くなってきたし、十分と満足した俺は直に返事をし、
来た道を少し沈んだ空気を二人して漂わせて歩いていった。
+++++
小屋が遠目に見えたとき、俺はコンラートにお礼を言う為に沈黙を破った。
「コンラートさん、こんな時間にごめんね。有難う。」
「いえ、俺の勤めですからね。様、さんを付けなくていいですよ。
それに、地球でお育ちでしたら、コンラッドの方が発音しやすいでしょうし。」
コンラートは有利にも言っていた事を俺に言った。
確かに英語に耳が慣れているから、コンラッドの方が発音しやすい。
でも俺はその前からコンラートを知っている訳で慣れている。
こんな事を言うと気付いてもらう前に自分からバラスも同然だ。
というかその前に…
「んー…じゃあ呼び捨てだけに止めさせて貰うね。」
「?何故ですか?」
「だって貴方はコンラートと言う名前を親から貰っている。
あだ名なら兎も角…それじゃあどっちが名前か分からないじゃないか。」
俺が言うとコンラートは少し驚いたような表情を浮かべた。
ん?俺何か変なことを言ったかな??そう思ったから言っただけなんだけど…
ちょっと困りながらコンラートを見ていると、優しい笑顔を浮かべてくれた。
なんか…今まで見た笑顔の中で一番綺麗かも知れない…
俺、絶対今顔赤いよ…
「ありがとう御座います。」
「え?あ、はぁ。」
訳も分からずとりあえず返事を返した。
なんだろう…凄く嬉しそうな顔をしているけど…
まぁいっか。コンラートが幸せなら俺も嬉しいしね。
…って俺何時からこんな乙女な考えを持つようになったんだ!?
いよいよ小屋も近づいてきて、コンラートは扉のドアノブに手をかけた。
楽しかったな。ずっと続いてほしいなんて思ったけど…無理だよね。
あ…俺そういえば一番聞きたい事をコンラートに聞いていなかったな。
その事を思い出し、ドアノブを捻るより早くコンラートに問いかけた。
「コンラート…最後に一つだけ…」
「何です?」
「…………有利の事…どう思ってるの?」
「陛下ですか?そうですね…守るべき大切な者でしょうか。」
考える時間もなくコンラートはそう応えた。俺はチクリとした痛みを胸に感じた。
有利へのコンラートの態度を見ていたら分かる返答だったけれど…
こうもあっさりと本人の口から聞くと、ダメージは大きかったようだ。
なんだろう…好きなのに…最初から望み薄なのかな??
そう思うと悲しさが溢れてきて止まらなかった。
俺はそれ以上コンラートの顔を見ていられそうにもなかった。
でも、急に態度を変えるのも怪しまれると思い、違和感のないよう、
今まで通りに振舞った。ちゃんと出来ているか心配だったけど…
「そっか。うん、本当今日はありがとうね。じゃ、お休みなさい。」
「お休みなさい。」
言い終えるとコンラートは小屋の扉を閉め、姿が見えなくなった。
俺はそのまま扉に凭れる様にズルズルと腰を下ろした。
悲しすぎて立っていられない気分だ。でも不思議と涙は出てこなかった。
変わりに有利への嫉妬っていうか…物凄く汚い憎い心が溢れ出てきた。
ずっとずっと好きだったのに。ずっとずっと想っていたのに…
それなのに今日会ったばかりの有利の方がコンラートに想われてる。
こんな事俺が思ってもどうしようもないのに…
でも有利とは一緒に居れそうにない。
折角俺の詰まらない生活を変えてくれた有利に…
とんでもない事を言ってしまいそう。
そうなる前に…俺は入り口とは反対側の窓を開け、外へ飛び出した。
その場から消えてしまえれば俺は如何でもよかった。
この先如何しようとかそんな事考えもせずに…一人森の中を彷徨った。