どうしてだろう
人に話すだけでこんなにも軽くて
こんなにも楽になるなんて
聞いた後も貴方の態度は変わらなくて
まっすぐに
俺の事を見てくれたんだ
俺も㋮のつく異界人! -10-
大分格好悪い事に、男が男の胸で泣いている状態の俺。
でも、男が涙を流し続けるというのも情けない話なので、
俺はなんとか溢れ出す涙を止めるように努力した。
まっ、その努力も虚しく涙は止め処なく流れてくる。
あーっ、何でこんな格好悪いんだ俺?
泣いている間はずっとアーダルベルトが優しく頭を撫でてくれていた。
俺なんかよりもずっと大きくて逞しいその掌で慰めてくれた。
以外にも「早く泣き止め」なんて言わずにずっと待っていてくれる。
本当になんでこいつはこんなに優しいのやら…俺には謎でしかない。
嫌っていた俺がなんか馬鹿みたいじゃんかよ。
暫くしてやっとの事で涙が止まった。アーダルベルトは「大丈夫か?」
と優しく声を掛けてくれる。そんなアーダルベルトに俺を笑顔で肯定し、
涙でぐしょぐしょになってる顔を渡されたタオルで拭った。
俺も切り替えが早いようで、真剣な面持ちで俺の事…
つまり俺の前世がエレナーデだと言う事を話す為に口を開いた。
前世の記憶があるなんて信じてもらえないかもしれないけど…
だけど、こんなに優しくしてくれるアーダルベルトに打ち明けたかった。
オカシイって笑われても、呆れられたって構わない。
ゴクリと緊張する俺は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「なぁ、アーダルベルト…話があるんだ。」
「何だ、お前やっと自分の事を話す気になったのか。」
「やっとって…まだ会ってそんなに日も経ってないんですけど。」
「細かい話は気にするな。で、何なんだ?話ってのは。」
「じ…実は俺には前世の記憶があるんだ…この世界で生きていた…」
言うとアーダルベルトは驚いたように目を見開いた。
それもそうかも知れないが、こんな顔なんか貴重な気がするよ。
今此処に携帯があったなら間違いなく俺は写メってたね。
ちょっと惜しい事した。
「本当なのか?」
「うん。確信はないけど俺の前世はフォンラドフォード卿エレナーデ。
多分アーダルベルトとも親しかったんじゃないのかな?
今はそこまで深い記憶が無いから申し訳ないんだけど。
最近コップから水が溢れ出すみたいに記憶が頭に流れ込んで来て…」
「…お前が…エレナーデなのか?」
「うん、信じなくてもいいよ。で、俺が此処にいる理由なんだけど、
ソコに関係してくる訳なんですよ。って、アーダルベルト?聞いてる?」
あちゃーなんか明様に考え込まれちゃってるんですけど。
どうせ俺は夢に出てくるエレナーデみたいに綺麗じゃないし?
優しそうでもないし?絶対に面影なんて物は残ってないと思うけどさ?
その態度は流石に酷いんじゃあないのかなぁ???
「お〜い?アーダルベルトさぁ〜ん???」
「そうだったのか、それでお前と喋っていると懐かしい感じがしたのか。」
「え?…なつ…かしい?」
「そうだ、お前と喋っていると昔を思い出した。」
え?何言ってるの?俺にはエレナーデの面影なんて本当に無いのに。
何処を探してもないよ。うん。コレは確信があるね。
だって…アーダルベルトがそう感じるならコンラートだってそうじゃないのか?
うわぁっ!!なんか訳わかんなくなってきたじゃねーかよっ!!!
「また難しい顔をして…おいっ、聞いてるのか?!」
「だっー!!訳わかんない!!何で懐かしいの?面影なんて無いじゃん!」
「そんな事か?魂だよ。」
「へ?」
「魂が気づいてるんだよ。お前の前世がエレナーデだってな。」
「たま…しい?」
何だろ…また難しい話をされちゃったよ。魂が気づいてるってどういうことだ?
本当訳分からない。でも…ううん、なんとなく分かる気がする。
俺が分からなくても魂がちゃんとアーダルベルトや、コンラート…
そしてこの国の事を覚えているんだ。だから俺も懐かしいなんて思った。
まぁ、俺の場合は夢とか毎日見ちゃってた訳だけど…
それでも毎日毎日同じ夢はおかしい。
ちゃんと続きが見れて、俺どれだけ想像力豊かなんだって話になる。
「うん、なんか分かった。」
「よし、で、お前はどうして此処にいるんだ?」
「あ、そうでした。えっと…まぁつまりは色恋沙汰?でもないのか?」
「何が言いたいんだ、はっきり言え。」
「あー…有利がな、コンラートと笑ってるのが耐えられなくなったんだ。
俺はコッチの世界に来る前からコンラートの事が好きだったんだ。
なのにコンラートは有利の事を…有利の事を…守るべき大切な者って…
俺…有利の事大切な友達だって思ってる。でも一緒に居ると傷つけそうで…」
「だから何なんだ?お前は何がしたいんだ?」
「何って…」
何がしたい?どういう事なんだろうか?俺は有利を傷つけたくなくて、
だから一生懸命逃げてきたんだ。有利は俺をつまらない世界から助けて、
そして俺に一緒に居る事の喜びとか、本当に色んな事を教えてくれたんだ。
それでもやっぱりコンラートの事ずっとずっと想ってきたから怖かったんだ。
有利に罵声を浴びせてしまうかも知れないし、そうでなくても態度に出てしまう。
勿論有利と一緒に居たいし、コンラートの傍に居たい。気づいて貰いたい。
「俺…コンラートの事好きなんだ…コンラートに気づいて欲しい。
俺がエレナーデだって。またお前の傍に居られるんだよって…だから…」
「ソレは本当にお前の意思なのか?」
「何…言ってるの?勿論俺の意思だよ。」
「違うな。それはエレナーデの意思だ。お前の感情ではない。」
「何言ってるんだよっ!!!俺の意思だよっ!!誰のものでもない!!」
「お前はエレナーデじゃないんだ。お前が言うように面影も無い。
全く別の人物だ。なのにどうやって気づけというんだ?お前はだ。
気づいてもらったからってどうなるんだ?お前の気持ちはどうなるんだ?」
アーダルベルトが言ってる事がよく分からない…どういう事?
だって俺の前世はエレナーデで、コンラートの恋人だったじゃないか。
だったらコンラートも、また一緒に居られるのは嬉しいって思うんじゃない?
確かに自分でも言ったように面影も何もないけど…アレ?
「もう一度言う。お前はだ。エレナーデじゃない。
そんなお前をどうやってウェラー卿が気づけって言うんだ?」
そっか…俺はエレナーデじゃないんだ。記憶があって、前世そうだったってだけ。
俺はじゃないか。この世界で生まれた訳でもないし、
夢を見ていただけで、この世界で過ごしていた訳でもないんだ。
俺はこの間コンラートと会ったばっかりなんだよ。として。
いつの間にかエレナーデの記憶と感情とが入り込んできちゃってたんだ。
でも………俺がコンラートの事を好きなのは変わりないんだ。
そっか…そういう事だったんだ。
「俺…コンラートに…好きになってもらいたいんだ。」
「そうだ。ソレがお前の感情だ。のな。」
「うん、ありがとうアーダルベルト。スッキリしたよ。」
不思議だ。こうやって気づいただけだって言うのに、大丈夫って気がする。
今まで、エレナーデだって気づいて欲しいって思ってたから嫉妬したんだ。
多分俺…いや、エレナーデが傍に居るのに有利の事を大切な者って言ったから、
浮気されてるみたいな感じで嫌だったんだ。ジュリアの時と同じように。
そんな事全然ないんだよ。だって俺はで、エレナーデじゃない。
だからコンラートとの関係だって一からきちんと組み立てなきゃいけない。
会って直ぐなのに好きになるとかそんなの難しいじゃないか。
ひ…一目惚れとかだったらあるかも知れないけどさ…そっか。そうなんだ。
「いい顔付きだ。さぁ、そろそろ寝るぞ。」
「え、あ、そうだな。もう真っ暗だしな。」
どうやら、泣いたり、話したりしている内に大分時間が経ってしまったようだ。
移動している時に明日も早いとか言ってたし、寝ないと明日に障るな。
本当アーダルベルトっていいやつだ。うん。俺この人好きだ。頼れるしな。
何でアーダルベルトは魔族なのにこんな所で一人で居るんだろうか…
うぅん…ま、俺だって聞いて欲しくないとかで話さなかったしその内でいいかな。
取りあえず泣いたから疲れた!!俺は眠いんだ!
いそいそと寝袋みたいなのに入って、それでもまだ寒くてブルッと身震いすると、
アーダルベルトがマントを広げて俺を腕の中にスッポリと収めてしまった。
自分の方が寒いはずなのになと思いながら俺は睡魔に負け、夢へ旅立った。
「お帰り、魂の在るべき場所へ。」
アーダルベルトがそう囁いたのは夢の中に居る俺には聞こえる訳も無かった。