どうしてそんなに泣きそうなの?
何がそんなに貴方を苦しめているの?
優しい貴方がどうしてそんな事を言うの?
何もかも未熟な俺には分からないんだ
助けたいと伸ばした手は
意味もなく宙を彷徨う
俺も㋮のつく異界人! -11-
爽やかな朝が訪れた。草木はざわめき、鳥たちは楽しげに歌っている。
俺も今日は昨日と違って早くに目が覚めた。なんだかよく分からないけど、
胸がざわめいて落ち着かない。何か嫌な事が起こりそうな…そんな感じだ。
この胸のざわめきが何なのか、今の俺には分かる筈もなかった。
唯アーダルベルトはいつもと違って穏やかさがなくて、緊張してる感じだった。
空気なんてピリピリと張り詰めていて、胸が締め付けられそうだった。
「おい、そろそろ出発するぞ。」
アーダルベルトに声をかけられたというのに俺は返事をするのを忘れていた。
忘れていたというより、緊張感でどうにかなってしまいそうだったので、
聞こえちゃいなかったのだと思う。何度も誰かが俺を呼んでる気はしたけど…
「おい!聞いてるのか!」
―ガツンッ―
俺のまん丸な頭にアーダルベルトの拳が見事にヒットした。
何があったか分からない俺は涙目でアーダルベルトを睨んだ。
オイ待て俺が一体何をしたっていうんだ!!
「なんだよっ!痛いじゃないか!!」
「お前がいくら呼んでも返事をしないからだろうっ!」
「へ?あ…あぁ。何?呼んだの?」
「呼んだの?じゃねぇだろ全く。俺様の言う事を全然聞いていなかったのか?」
「あ…え…うん。」
俺がしどろもどろ返事をするとアーダルベルトは盛大なため息をついた。
ヒデー!考え事してて聞いてなかった俺も悪かったんだと思うけどさ…
け・ど・さ!!!
何も思いっきり殴らなくたっていいじゃないか!!
俺は一応緊張してるアーダルベルトを心配して考えてたのにさ!!
「うっ…何だよ。」
「出発すると言ったんだ。置いて行かれたいのなら話は別だがな。」
「え、待って。行くから!!置いて行くとか言うなよ!」
「ならさっさと用意をしろ。今日は忙しいからな。」
「忙しいってどうして?」
「…………」
「?」
アーダルベルトが押し黙るなんて事珍しかったからどうしたんだろう?
って思ったんだけど、聞かれたくないから黙るんだから、聞かない方がいい。
何か俺には言えないような仕事があるのかも知れないし。
きっと子供は知らない方がいいとかそういうのなんだろうな。
ちょっと気になったけど、本当に置いて行かれそうになったので、
俺は慌てて準備をした。こんな所に放置されたら俺は確実にのたれ死ぬ!
+++++
暫くの間馬に乗っていた俺たちだが、やっとの事で村が見えてきた。
今日はここで用事があるから忙しいのかな〜?なんて考え事してたら、
あっという間に村に着いた。到着したはいいが、この村の雰囲気は好かない。
今日のアーダルベルトと一緒でなんだかピリピリしていて、緊迫してる。
それにしても、先ほどからすれ違う人は何だが折れてしまいそうなほど細い。
細いというよりも健康的になんかヤバイ感じがする。目なんて死んでるし。
一体この村に何が起こったというのだろうか?
そんな人と何人もすれ違い、アーダルベルトは馬を止め、地に足を下ろした。
どうも長老らしき人が目の前に立っていて、その人と話をしているようだ。
別に俺に関係なくてもそう遠くない所で話されたら会話は聞こえてしまうもので、
自然と耳がそちらに傾く。
「アーダルベルト様!どうか我々をお助け下さいっ!
もう村の者は飢え、食べるものも底を尽きかけています!!
どうか!!どうか私達をお助け下さいませんでしょうか!!」
何だ!?アーダルベルトは神なのか!?
お助け下さいってどういう事だ?しかも飢えてるって…
だから皆あんなに痩せこけて目に光が灯ってなかったのか?
にしても何でそんなに食べ物が底を尽くほどなんだろう…何があったんだ…
「なぁ、何があったんだ?アーダルベルト。」
「あ?この村は去年は記録的な大豊作でな、連中の国が増税したんだ。
去年の結果を見て大丈夫だろうと踏んでの決定なんだろうがな。
だが今年その量以上の収穫ができるとは限らない。」
あ、なるほど。だから食料が無くなって、飢えてしまうという結果になったのか。
それにしても、どうしてそれとアーダルベルトが関係してるんだ?
アーダルベルトがこの村の飢えを解消できる訳もないのに、どうして村人は、
こんなに彼に請い諂っているのだろうか?なんか嫌な予感がする。
そう俺が身震いしたのとほぼ同時のタイミングだったかもしれない。
アーダルベルトは今まで見た事のないほど恐ろしくニタリとした笑みを浮かべた。
俺の背筋を嫌な寒気が這い、恐怖を覚えた。
「信仰する神の教えには背くなよ。」
「と、仰いますと?」
「簡単な事だ。無いのなら奪えばいい。丁度隣は魔族の土地を耕す人間の村だ。
同じ人間でも魔族と関る者から奪えば神もお怒りにならないだろう?違うか?」
「おぉ!!流石はアーダルベルト様!!その通りで御座います!!」
「なぁに、隣人から奪うという重い罪も問われる事はない。」
「有難きお言葉!直ぐに皆を集め、奇襲の準備に掛かります。」
「あぁ。」
な…に…言ってるんだ?隣の村を襲う?奪う?奇襲…それって…
センソウ?
何で?皆おかしいと思わないの?だって…人と人が争うだなんて…
人が人の命を簡単に奪うだなんて…そんなのおかしいじゃないか。
無いから奪うってそんなの間違ってるじゃないか。ないなら作ればいい。
違う…税が多すぎて追いつかないんだ。だったら奪わずに頼めばいいのに。
どうして…どうして魔族が関係しているからって…そんなの…
マチガッテル!
俺は跨っていた馬から、ヒョイと降り立ち、アーダルベルトの許へと向かった。
兵士らしき者と喋っているアーダルベルトの肩を掴み、此方へと向かせた。
そして俺は懇親の力を込めて、アーダルベルトの頬を殴ろうと思った。
思ったのだが…
「放せ!!殴らせろ!!」
「それで殴らせれば俺はマゾだな。どうした?そんなに怖い顔をしてぇ?」
「何であんな事言うんだよ!!
何で奪えなんて…そんなの間違ってるじゃないか!」
「間違ってる?間違っているのは魔族の方だ。
なんでも眞王の言う事ばかり聞いて!」
「それがどうしたって言うんだよ!
信じてる者がそうであるなら誰だってそいつの言う事を聞く!」
「お前は何も分かっちゃいないからそんな事が言えるんだ。」
一瞬アーダルベルトの瞳に影が過ぎった。とても悲しい悲しい影。
願っても取り戻す事も出来なければ真実を知る事も出来ない。深い深い影が。
痛いほどに掴まれていた俺の腕の力が抜け、
悲しそうな顔をするアーダルベルトを、殴る事も出来なくて、
宙を彷徨い、行き場を無くした腕をそろそろと降ろした。
どうする事も出来なくて、無力な自分に腹が立って俺は泣いた。
戦う所なんて見たくない。
優しいアーダルベルトがあんな事を言ったのも聞きたくなかった。
優しく笑うその顔で、あんな…
血が滲む程に握られた拳に、見っとも無く震える俺を彼は優しく包んだ。
何がそんなにアーダルベルトを悲しませるんだろう。
何で人は戦うんだろう?俺は知りたくもなかった。