聞こえるはずの無い声が聞こえた
悲痛に訴える言葉は
今は亡き者の声で
懐かしくて涙が出そうになった
助けてあげてと叫ぶ声に
俺は我武者羅に走った
俺も㋮のつく異界人! -13-
陛下をアーダルベルトの魔手から救い出した後のことだった。
感動の熱い抱擁を終え、村に戻ろうかと馬に跨ると、
その声は聞こえてきたのだ。実際に聞こえたのではない。
脳に直接話しかけているかのようだったが、それも違う。
風が運んできた…そんな感じだった。
声はとても懐かしい音色で、そんな筈はないと思った。
その声の持ち主は遠い昔に亡くなってしまっているのだから…
あの笑顔と、美しい声を聞くと何時も癒された。
だが、聴こえて来た声は優しくなんて無くて正直焦った。
悲痛な程一生懸命に“助けてあげて”と訴えかけてきたのだ。
キョロキョロと視線を彷徨わせるコンラッドに気がついた有利は、
何時も冷静な彼が如何したのかと不思議に思い声をかけた。
「コンラッド、どうしたんだよ?さっきから何探してんの?」
「いえ…声が聞こえたんです。」
「声?どんな?」
「“助けてあげて”と…」
コンラッドの言葉を聞いた有利の表情は一瞬凍ったが、
直ぐにその表情には焦りの色が滲み出た。
可愛い顔を少しばかり青くして、ワナワナと落ち着きが無い。
パクパクと口を開閉し、言葉を発せずにいる。
そのお陰で傍から見れば相当可笑しな人に見えるであろう。
「え!?え!?それって大変じゃんコンラッド!
今すぐ助けに行ってあげてよ!!」
「ですが…陛下の護衛がありますので。」
「それならヴォルフラムが居るから大丈夫だよ。な?」
「あ、ああ!任せておけ!ユーリにはこの僕が付いているからな!」
「ほら、な。こいつもこう言ってるしさ。
それに、助けを無視するなんてことして欲しくないんだ。」
有利は真直ぐ、真剣な瞳でコンラッドを見上げている。
戦うことが嫌いで、助けてと求められれば断れない程のお人よしで…
でもそこが有利の良いところであるのだ。
コンラッドはその心を受け取り、内側から温かくなるのを感じた。
有利の魂は真っ白で、少しも汚れてなんていない。
それが本当に嬉しかった。
「分かりました。それでは行って来ます。ヴォルフラム、陛下を頼んだよ。」
「フン!任せろ。」
少しばかり機嫌が良い弟の態度にコンラッドはクスリと笑みを洩らすと、
愛馬に軽く合図を送り、直感のままに馬を走らせて行った。
正確な場所なんて分かるわけでもないのに、何故か間違っている気はしない。
風が道案内をしてくれているかのように、導いてくれている気がする。
気のせいなのかも知れないが、その風の道を頼りに駆けた。
+++++
風の便りで馬を走らせていたコンラッドは村の中心辺りまで来ていた。
可笑しなことに、内部に向かうに連れて、火の勢いは増しているのだが、
コンラッドが進む場所だけは火が避けて道を作っているかのようだった。
この炎は何かの術が施されて燃えているのだ。
だからそれに対応出来るのもまた術。
という事はこの風は誰かの術ということになるのかも知れない。
そう考えていると急に、行方不明になったの顔が思い浮かんだ。
彼女と同じ言葉をくれたあの彼の顔が…
「急げ!ノーカンティー!」
突然の不安にコンラッドは表情を険しくさせ、愛馬に鞭打った。
どうか一秒でも早くあの声に応えられる様にと願いながら。
暫く行くと、目の前に小さな小屋が見えた。
その小屋はパチパチと音を立てて燃えていたが、勢いはそれ程でもなかった。
コンラッドは愛馬を小屋の近くに留め、少し炎が移った扉を打ち破った。
探すまでもなく、小屋の真ん中に縛られた少年が倒れていた。
コンラッドはその少年へと近づき抱き起こすために腕をかけた。
その間気が気ではなかった。もし、呼吸をしていなかったら…
もし、体温が感じられなければ?嫌な考えばかりが脳裏を過ぎる。
だがその考えも杞憂に終り、少年―は息をしていて生を感じた。
コンラッドは深く安堵の溜息を吐くと、ギュっとその身体を抱きしめた。
より一層命を感じるためにと。
きつく抱きしめていると、苦しかったのかはノロノロと瞼を上げた。
焦点の定まらなかった瞳がコンラッドの瞳を捕らえた。
「コンラート…たす…けに…」
「、喋らないで。」
「ケホッ…来てくれるって…おもっ」
「お願いだから喋らないで下さいっ。」
「…ありが―」
「!?」
は安心したのか、それとも煙を吸い込みすぎたのか、気を失ったのか。
煙を吸い込み過ぎたならば、一刻も早くこの場から離れ、手を施す必要がある。
コンラッドは優しくを抱き上げ、急いで愛馬へと戻った。
この焦る気持ちは、が目を覚ますまで消えることはないのであろう。
何故だか分からないけれど…いや、本当は分かっているのかも知れない。
気づいていないだけで、心の奥底ではずっとそれを感じていたのかもしれない。
有利の居る場所へと戻るまでの間、コンラッドはずっと考えていた。
何故、今腕の中にあるこの少年が無事であったと分かった瞬間に、
あれ程の安心感を覚えたのか。この気持ちは何であったか…
だがそれもの青白い顔を見ることにより直ぐに消し飛んだ。
コンラッドがこの気持ちに気づくのはもう少し後のお話。