最初はただ美しいと思っていた旋律
だけどその旋律は今は僕だけのもので
僕は途轍もない優越感を持っている
この旋律を独り占め出来るのだから
天使の旋律
放課後の校舎。物静かで何処か寂しい雰囲気を漂わせている。
部活動も終り、そろそろ日が暮れようとしている。
少しずつではあるが、闇が校舎を支配しようとしていた。
完全下校はとっくに過ぎ去り、校舎に生徒は誰一人として残っていない筈だ。
その廊下を風紀委員長である雲雀恭弥は今日も見回りを行っている。
彼は愛校家で、校内の風紀を守る為とあらば、仕事には手を抜かない。
何事もなく終わるはずの見回りだが、ふと聴こえて来た旋律に溜息を零す。
「はぁ…またか。」
ポツリと零れた独り言は長い廊下へと溶け込んだ。
少し上の階から旋律が流れてくる。それをでるものは雲雀も良く知る人物だ。
「全く…待っていなくて良いって言っているのに。」
そうは言いながらも少しばかり嬉しそうに笑みを浮かべ、
雲雀は旋律の方へと歩を進めていく。
ゆっくりだが、何処か浮き足で急いでいるようにも感じ取れた。
目的地であろう音楽室に辿り着いた雲雀は、その扉をガラリと開け放つ。
中では待っていましたとばかりに、嬉しそうに笑う生徒の姿があった。
「恭弥!!」
生徒は雲雀が扉を閉めるなり、雲雀に抱きつき、笑顔を振りまいた。
生徒の名はと言う。可愛らしい背丈で、目はくりくりしている。
典型的な女の子顔で、スカートを穿かせると女子生徒と間違われるだろう。
まるで子犬が尻尾を振ってご主人様を迎えているようであった。
「あのねー恭弥が気づいてくれるように歌ってたんだよ。」
「、遅くなるから待っちゃいけないって言わなかったかい?」
「んーでも恭弥と一緒に居たいもん。だから…」
「…全く…仕方ないね。」
「えへへ。」
ばつが悪そうに節目がちに話していただが、雲雀の一言に顔を上げ、
あらんばかりの笑顔で雲雀にギュッと抱きついた。
そしてフワッと雲雀から離れたと思うと嬉しそうに歌を紡いだ。
美しい旋律が音楽室を支配し、優しさという空間が出来上がった。
先ほど聴こえて来た旋律より幾分も楽しそうで、心が弾む。
雲雀は苦笑し、その旋律に耳を傾けた。
++++++++++
出会いは春だった。は今一年生で、学校生活にもなれた頃、
今日のように放課後に音楽室に忍び込み、一人歌を紡いでいた。
夢中で歌っていた所為か、完全下校の合図も聞こえずに、
熱唱し続けていた。そこに見回りに来た雲雀に出会い、恋をしてしまった。
初めは噂の不良の頂点雲雀恭弥に怒られる…基咬み殺されるのかと、
ビクビクしていただったのだが、案外そうでもなく、雲雀は口を開いた。
「綺麗な歌声だね。僕の為に歌うのなら見逃してあげてもいいよ。」
その一言にポカンとしていただったが、美しい雲雀の姿と、
凛としたその態度と、雰囲気に飲まれてしまった。
つまり一目惚れ。
そして今歌う歌の全ては雲雀の為だけのもので、雲雀だけの旋律なのだ。
+++++
「ねぇねぇ恭弥ぁ…キス…したいな。」
「キスだけでいいのかい?」
「え!?な…っんぁ」
プツリと美しい旋律が途切れたと思うと、は恥ずかしそうに雲雀を振り返り、
もじもじと言葉を紡いだ。それに嬉しそうに応えた雲雀だが、意地悪く笑んだ。
何かを企んでいるような、獲物を捕らえて放さない獣のような瞳だ。
をグッと抱き寄せ、耳元で低く囁いた。それと同時に首筋を舐めてやると、
可愛らしい声を洩らし、顔は真っ赤で、耳まで赤く染めている。
「キスだけでいい!!キスだけがいいの!!」
「へぇ…そうなんだ。」
「そう!そうなの!!」
慌てながら喋っている様は歌っている時のような美しさとは違い、
とても可愛らしい。話をするときや、甘えてくるときは年相応に見える。
歌に関しては何故か人が変わったかのように大人びている。
雲雀はそんなギャップが溜まらないらしい。
「ふーん…目瞑りなよ。」
「キスだけ?」
「キスだけ。」
「ん…」
可愛くも目瞑ったに、雲雀はクスリと一つ笑い、の顎を掴み上を向かせた。
抱き寄せているので、が物凄くドキドキしているのが分かって嬉しい。
そんなことを思いながらの唇に自分の唇を優しく押し付け、
触れるだけのキスをしてみせた。唇を離すとは満足そうに微笑んだ。
その笑顔が溜まらなく可愛らしくて、雲雀はもう一度キスを落とす。
恥ずかしそうにしていたが、自らもソロソロと腕を回し、雲雀に応えた。
が…
「ふっ!?んぁ…きょ!!」
安心しきっていたのに、唐突に雲雀はの唇をこじ開け、
熱い塊をの口内へと侵入させた。行き成りの行為に、
は呼吸を上手くすることが出来ず、直ぐに息が上がる。
そんなことはお構いなしといった雲雀は、口内を犯し続けている。
苦しくて溜まらなくなったの瞳からは透明の涙が伝っている。
「ふぅ…ぁ…くるし…」
クチュリと恥ずかしい水音が音楽室に響き渡り、心臓が壊れてしまいそうだ。
一生懸命に雲雀を引き離そうと、力を込めるが全く意味をなしていない。
雲雀の力はより遥かに上で、敵うことなどありはしない。
漸く満足したのか、雲雀はの唇を解放し、満足げに笑った。
「何泣いてるの?僕を誘ってるのかい?」
「なな!!そんなことないです!!僕キスだけって言ったのに!」
ハァハァと肩で呼吸をし、怒っているのに顔が真っ赤だから迫力がない。
本当に可愛い恋人だと思いつつ、雲雀はまた笑った。
その様子が気に食わないらしいはプクっと頬を膨らませそっぽを向く。
笑いが収まった雲雀は、まだ腕の中に居るをギュッと抱きしめた。
「があまりにも可愛らしかったからね。が悪いんだよ。」
「何で僕の所為になるんですか…」
「知らない。それより…僕の為に歌ってよ。」
「むぅ…恭弥の我侭。」
そんな事を言いつつも、スッと美しい旋律をで始める。
先ほどとは違うその表情に雲雀は目を瞑り、天使の旋律を堪能した。
きっと待っていなくてもいいと言っても、明日も待っているであろう…
可愛い可愛い天子の旋律。