弱気な肉食獣。
「」
コンラートの笑みに、思わず腰が引ける。ああ。ナイス笑顔だよコンラート。
かっこ良過ぎて、俺の顔引きつってるくらいだもの。
「ほら。こっちにおいで?」
「…いえいえ。謹んでご遠慮させて頂きます」
「何故?」
「だってコンラート、何か企んでるし」
そう。コンラートは、いつも映画俳優のように崩れることのない笑みを浮かべているけれど。
俳優だって、感情はあるのだから。わかる。わかるさ。
…そういう顔してるコンラートって、絶対何か企んでるんだって。
だから、思いっきり警戒しながらはコンラートと慎重に距離を取った。
相変わらずの笑みを浮かべ、コンラートはじりじりとその距離を縮めてゆく。
気分は肉食獣なのだろうか?
それはにはわからなかったが、
彼が脅え気味の自分を追い詰めていくのを楽しんでいるのは感じられた。
本当に意地悪だ。コンラートって。
――はソファーの端まで追いやられて、内心悲鳴を上げる。
「企んでるなんて。人聞きが悪いなあ」
「じゃあ、何も企んでないですよとか言うつもり?」
「企んでないさ。――キスしたいなあなんて思ってるくらいで」
そういうのを企んでるって言うんだ…!
覆いかぶさるように顔を近づけてきたコンラートに、抗議の声をあげる。
コンラートは残念そうに首を傾げた。
「…駄目なのかい? キス、しちゃ」
「だ、だ だ だ 駄目! 駄目! 人来たらどうするんだ」
「別にどうもしないさ。だって、俺とが恋人同士なのは周知の事実だし」
「そういう問題じゃない…っ!」
がじたばたと抵抗すると、コンラートはややむっとした表情になった。
真っ赤な顔をして自分退かそうとするをコンラートはやや思案顔で眺めた後。
彼はが背筋をぞくっとさせるような綺麗な笑顔を満面に浮かべた。
「キスは駄目、だったね?」
じゃあ、それ以外なら良いよね。 ――そう言って。
硬直した一瞬の隙を縫って、コンラートはをソファーへと押し倒し。
彼の手首を取りちろりと舌で舐め上げる。
「…っ!」
その生暖かい感触に驚いて殴ろうとしてきたの両手首を、
するりと引き抜いたベルトで捩じ上げて。
彼の足の間に自分の足を割り込ませてしまえば、体格でも腕力でも、
こちらの方が上なのだ。ひ弱な小鳥は腕の中から逃げられない。
コンラートはぷつりとのシャツのボタンを外し、
その平坦な胸板に大きな手を這わせた。身体がびくりと震える。
コンラートは猶も抵抗するを弄ぶかのように、その喉元に軽く噛み付いた。
「コ、コンラート…! 止め…っ…ぁ…」
羞恥に頬を染めて。は首筋を仰け反らせた。
白い肌が描く見事な曲線に笑みを深め、
コンラートは桃色の突起の先端に舌を押し当てる。の喘ぎ声が一段を激しくなった。
「駄目…ぇ…ぃあっ…ぅ、ゃあ…っ」
「嫌? ――本当に?」
涙目で睨むの目尻を唇吸い上げ、そっとその下半身へと手を伸ばそうとする。
ズボンの後ろから入り込んで、双尻の膨らみを掌で掴むコンラートに、
は低い声で怒鳴った。
「…らー、ト…っ…! …やっ…ぅ…」
「なんだい?」
「…っ…止めてくれなかったらっ…嫌ぃ、なる…から、な…っ!」
ぴたり。――その言葉を聞いた途端。コンラートの全ての動きが止まった。
笑顔が崩れ、真顔のまま硬直してしまっている。
いい加減、が心配になって声をかけようか迷い始めた頃。ようやく、
コンラートは正気に返ったようだった。
戸惑ったままのの両手首を拘束するベルトをあたふたと外し。
器用なはずの長い指でおろおろと彼のシャツのボタンを止め。
呆然とどう反応していいかわからないままのの前で姿勢よく立ち、
思い切りその頭を下へ下げた。
「悪かった。謝る。…だから、どうかお願いだから俺のことを嫌いにならないで欲しい」
突然豹変したコンラートの態度に、未だにはついていけてない。
目の前にあるコンラートの後頭部をぽかんと見やりながら、
彼はなんと言っていいかわからずにただ唸った。
「え。あー…。うん、いや…。嫌いにならないよ、これくらいじゃ。…多分」
「多分?」
「――好き。好きだって! 俺コンラートのこと好きだから、
そんな捨てられた子犬のような目すんなよ…っ!」
なんだか悪いことをした気分になって、は慌てて叫んだ。
本当に? コンラートは何度も念を押すように確認し、やがて満足そうに目を細めた。
「良かった。――に嫌われたら、生きていけないからね」
「大げさな。…コンラートっていつも強い癖に、変な所で弱気なのな」
そんなコンラートを、どうしようもなく愛しく思ってしまうのだけれど。
「そう? 好きな人に嫌われたくないっていうのは、普通だと思うけど」
可笑しそうに笑うに、困ったようにコンラートは微笑んだ。
――そうだね。俺も、コンラートに嫌われたくないや。
は小さく微笑んでコンラートの肩に寄りかかった。
薄く頬を染めて呟いたを、コンラートは愛しそうに撫ぜる。
大丈夫。俺はを嫌いになったりはしないよと言いながら。
「。――キスしても良い?」
「んー? …どうしよっかなあ」
くすくすと漏れるの声。意地悪なも好きだよとコンラートは笑った。
ああ。俺もそんな優しく笑ってくれるコンラートが好きだよ。
二人の唇が、溶けるように一つになった。