人生とは選択の連続

















様っ!」


「殿下、お逃げ下さいっ」


「んぁ?」


スオウを抱いて、中庭を通りかかると、不意に聞きなれない声が、後ろから聞こえてきた。


そして次にはよく知っている城門に立っている兵士の声。


腕の中でスヤスヤと心地良さそうに寝息を立てながら眠っているスオウへとチラリと視線を向けた後に、立ち止まり、が振り返る。


「殿下、早くお逃げ下さいっ」


少し離れた位置から、小汚い男が走ってきているのが見えて。その後ろに兵士が二人ほど慌てて走ってついてきている。


「むーふー」


んふふふ、なんて、スオウが小さく笑った。楽しい夢でも見ているのだろうか。


思わずまで微笑んでしまう。


「殿下っ」


そして兵士の焦った声に、スオウから顔を上げた。


様っ」


逃げようともせずに、ただは突っ立ったままで居ると、小汚い男がの名を叫びながら頭からスライディングして、の前で止まった。


緩い風が吹き、の茶の混じった黒髪を靡かせる。


「殿下っ」


兵士たちの声に、は軽く顎を上げる。


「別に構わない」


目の前で横になっている小汚い男を一瞥する。


如何やら武器の類は所持していないようだ。


最も、何か武器を持っていたとしても、は気にしないだろうが。


不意には空へと視線を向けた。


あぁ、そういえば、今日は暑い程の晴天だった。


何て思考を巡らせながら、唸りながら起き上がってくる男へと視線を戻す。


「んで、何か用か?」


眠っているスオウを起こさぬように、とが小さな声で言葉を発すると、男が慌てて膝を折り、地面に額を擦りつけて土下座をした。予想通りだったのか、は眉一つ動かさない。


「ご無礼を承知で参りました。どうぞ、殿下のお力をお借りしたくっ」


「声が大きい、スオウが起きてしまうじゃないか。で、何だ、と聞いているんだが。とりあえず、顔をあげろ。声が聞き取りづらい」


むー、と唸りながらの胸に顔を押し付けてくるスオウを見ては小さく微笑んで、次には何の感情も持ってない鋭利な目で男を睨み付ける。


の言う通りに顔を上げた男の顔が一瞬強張った。


早く、とばかりにが顎を上げて促すと、男は思い出したかのように慌て、何やら懐を探っていた。


「これ、を…っ」


「殿下っ」


震える両手で何を取り出したかと思えば、小さな果物ナイフ。


太陽に反射して、銀色のソレがキラリと輝き、途中立ち止まって成り行きを見守っていた兵士たちが驚く。


「有難う、大丈夫だ」


の方に向かって走ってこようとする兵士たちを手で制すると、兵士たちは再び立ち止まる。


は男へと視線を向けた。


「ソレが如何した」


動じた様子一つなく、がまた男へと一瞥を向ける。


「これで、何度も何度も……自分を刺そうと思っておりましたっ。けれど、しかし…怖くて、怖くて。もう殿下に頼るしかないのですっ」


男が叫びながら、額を地面に擦り付ける。


「むー?」


その叫び声にか、スオウが薄目を開けて、身動いだ。


よしよし、と軽くスオウを揺り動かして、は溜息を吐き出した。


「自分で自分を殺せないから、俺に殺してくれ、だと?」


に睨まれている所為で恐れているのだろうか、男は小刻みに身体が震えたまま、それでも額を地面に擦り付けている。


「とりあえず、理由でも聞こうか」


船を漕ぎながらもスオウが目を開けて男を見つめていた。


話を聞くのも面倒、なんて思ったのはここだけの話で。


「妻や子供や、家族にも、兄弟にも見捨てられたのです。金も権力も地位も何も持っていない私はこの世に生きていても仕方がない、と。そう罵られて今日まで生きてきました。しかし、夢も、希望も、未来でさえも失っている私は皆が言うとおり、この世に生きていても仕方がないのです」


男が一度言葉を切って、大きく呼吸する姿が見える。


「何度も何度も、手首にナイフをあてました。けれど、けれど、怖くて…自分で自分を殺すのは酷く、怖くて!傷つける事さえ叶わずに。殺してくれ、と誰に言っても、笑われるだけでした。しかしながら、殿下なら、殿下ならっ」


「俺を殺人者にするつもりか?」


呆れたようにが溜息を吐きながら困ったよに苦笑いを漏らした。


「そんなわけでは!ただ、私は、自分で自分も殺せないような弱い魔族です。私には何もない。生きている価値も、意味もないのですっ」


スオウが完全に起きたのか、男を眺めながらその大きな目を更に丸くしていた。


「ママー?」


そしてスオウが何処か不安そうにへと視線を向けてくる。


何が起こっているのか、解っていないのだろう。


いや、別段大した事は起こっていない。


「つまり、アレだろ。自分で死ぬのが怖いから、代わりに俺に殺してくれ、と。つまり、俺を殺人者にしたい訳か」


「いえ、そういうつもりは全くっ」


「無いとは言い切れないだろう。殺してくれと、お前が願っても、俺がお前を殺せば、立派な殺人者になる訳だ。残念ながら俺は殺人者になるつもりはない。他を当たってくれ」


「ですがっ!」


「俺にしか頼れる者は居ないって?」


面倒臭そうに言葉を紡ぎながら、スオウの頭に手を寄せる。


そしてそっと手を上下に動かして、スオウの髪を指で梳かした。


「自分で自分を殺せないのは、弱さじゃない。死ぬ事は、最大の逃げになる。死ねば其処で終わりだが、生きていると言う事は、今以上の苦痛に耐えなければいけないと言う事。それを選ぶと言うのは、途轍もなくパワーが要るだろう?」


が小さく微笑み、スオウの額へと口付けると、スオウは照れたように視線を左右に彷徨わせて、の胸へと顔をぐりぐりと埋めた。


「ナイフをあてたと言ったな?別にあてたって良いと思うぞ。それについて賛成も否定もするつもりは無いが、自分に傷一つつけられなかったと言うよりも、自分で傷を作らない事を選んだだけじゃないか。傷をつけて安心するのは他愛のない事だが、傷をつけずに、心の中で靄を抱えたままで居る事ほど、パワーの要る事はないな?ほら、みろ」


「……?」


スオウに語るようにそっと優しげに囁く


スオウは頭をの胸に擦り付けたまま、隙間から上目で覗き込んでいた。


「お前は今、凄いパワーを出している。それだけでお前は強い。否定するだけ、罵倒するだけの者と同じ事をする者の方が良いのか?そのほうが人を批判するだけの者が強いのだろうか?そんなヤツらと一緒に居たいと思うのか?陳腐な考えしかもてないヤツらと一緒に居たいか?」


「悪い子ちゃんめ!悪い子ちゃんめ!」


「そうだな」

はーいはーい、とスオウが両手を挙げて言うと、がまた小さく笑みを浮かべて、頷いた。


「ま、そいつらも、自分が傷つけられないように、他人を先に傷つけてしまえば、傷をつけられない、と思っているからだろう。つまり、何も言い返せない、と言うより、言い返さないと言う事を選らんお前は、内に、感情を押さえ込む巨大なパワーを秘めていると言う事。何もないと言う事は、失うものさえないんだろう?だったら、思うとおりに動けば良いんだ」


「良い子ちゃん撫で撫で。良い子ちゃん撫で撫でっ」


はいはーい、とまたスオウが両手を挙げているのを見ると、は手をスオウの後頭部にあてて撫でる。


「他人からの言葉で傷ついて、悲劇の主人公を演じるか、それともドタバタ逆転ハッピーエンドを迎えるのかは、お前の意思によるがな?尤も、タダで生きさせてもらっているんだ。人生楽しまなきゃ損じゃないか?お前の人生だ。他人に文句を言われる必要はない。死ねば其処で終わりだ。楽しいものや嬉しいものにさえ辿り付けずそこで暗転するのみだ。けど、生きていれば、楽しい事もあるかもしれない。ま、絶対、とは言わないけどな?」


好きなようにしろよ。なんて無責任な言葉を残して、が踵を返す。


「門まで送ってやってくれ」


なんて、一度振り返って遠くから見守っている兵士たちに告げると、ぼんやりと立っていた兵士たちが慌てて駆けてくる音が聞こえてきた。


「ママ、じんせいってむずかしいのよ?」


「そうだな」


何時も通りの、ママしゅっごーい!何てよく解ってないのに嬉しそうに言っているスオウに、小さな笑みが零れたのは言うまでもない。







「あのね、ヨザッくん!」


「ん?何ですかー?」


ヨザックに抱かれて中庭を散歩中に、不意にスオウが何かを思い出したのか、ヨザックの胸を軽く叩いて呼びかける。


機嫌よさそうに鼻歌交じりでヨザックがスオウへと視線を向けた。


「えらぶゆうきとえらばないゆうきがあるんだって」


「はい?」


きらきら、と目を輝かせてスオウが言葉を口にするが、ヨザックは意味が解らずに首を傾げた。


「じんせいにはえらぶゆうきとえらばないゆうきがあるんだって」


しゅごいねぇ?


一人にっこりと笑みを浮かべて、ちっちゃな両手で頬を包み込む。


何が凄いのかは、解らないのだが、今日も、一日、笑った顔を見られて良かった、なんて思ってしまうヨザックだった。








fin





後書き(言い訳)

お祝いの品、有難う御座います!
少しばかりのお礼ですが…と言っても、非常に、意味不明なものなっております(滝汗)
コンさま一回も出てきてない!(致命的)
スオウとヨザックも殆ど出てきてないっ(駄目)
何を言いたいのか解りづらいものになっているんですけれど(駄目人間)
受け取っていただけると嬉しいです。
次はもっと楽しいものを…と思ってもみたり。

何は兎も角、有難う御座います!
ヨザックもスオウも可愛い!うひょー!何て言いながら眺めさせて頂いておりますっ(礼)
誕生日にプレゼントを貰うって嬉しい事ですね。
本当に有難う御座います。

駄文ですので、勿論返品可です!

有難う御座いました!


2007/06/16 Bright Mission 片桐誉






お礼
ムヒャー!!大好きサイトの管理人であらせられる片桐様より頂いてしまった!
頂いた瞬間のあの興奮を皆様にもお伝えしたい!!(落ち着けよ)
押し付けのような形で誕生日プレゼントを差し上げたら…こんな素敵な物が!!
あれです。夢月生きていてよかったなっ!と思いました。いやマジで。
にゃー!子主が可愛くて可愛くて仕方ないですね!!頭埋める所とか特に!!
むへ///マジで嬉しいです(照)こちらこそお返しありがとう御座いますっ!!
なんていうか…丁度悩んでる時期にこのような小説を頂けてスッキリしました。
もしかしてブログ読んで下さったのか?読んでなくてこれを頂いたなら、
なんか物凄く運命な感じがするのですが…(夢を見るなぁっ!!)
いえ、兎に角この子主の可愛さだとか、ヨザックの愛だとかを…(閉口)
片桐様っ!大好きです(ダイビング土下座)