狗の様に尾っぽを振って
何も考えずに命令を聞いて
無邪気な顔で踊っていれば良かったのだろうか?
全ては貴方に -第一話-
『狗は主人に逆らうべからず』
無駄に広い屋敷のある一室で、少年は天女の様に舞っていた。
少年の舞は女の様にしなやかで、又男らしい力強さを感じさせる。
その舞いは見るもの全てを魅了し、漆黒の闇へと導いた。
この舞いを一言で表すことが出来るのであれば誰もがこう言うだろう。
「艶ヤカ」だと
少年が舞いを終えると、そこに居た全ての者が興奮し、
喝采の拍手を送った。人々は口々に賞賛の言葉を送る。
「綺麗だった。」 「美しかった。」 「素晴らしい。」
短い褒め言葉、だが、その短い言葉しか人は発する事が出来ないのだ。
この舞いを表現出来る言葉がこの世には存在しないのだ。
誰もがこの舞いを前に、言い表せる言葉を持ち合わせていない。
皆が褒め称える中、一人の中年男性が少年に近づき、頭を撫でた。
少年はさして嬉しそうな顔もせず、無表情でその手を迎えた。
舞っている時と打って変わって違うその表情に男は憤りを覚えた。
「明斗や、今日も素晴らしい舞いだった。後で私の部屋に来なさい」
「ハイ・・・ご主人様」
少年の名は“明斗”と言うらしい。どうやら明斗と男の関係は主従の様だ。
主従というより、若しくは飼い主とその狗といったところか・・・
どうにせよ、この飼い主に飼われている状況では、明斗に自由など無い。
狭い狭い檻の中に閉じ込められ、羽ばたく事を知らない鳥なのだ。
明斗は逆らう事を知らず、逃げる術すら知らない、可哀想な狗だった。
+++++
一刻経ち、明斗は言われたように主人の部屋を訪れた。
その扉はどの部屋よりも豪華で、重かった。
明斗が扉をノックすると、男の「入れ」という短い言葉が聞こえた。
「失礼します」と扉を開け、部屋に踏み込むと、そこには機嫌の悪い主人の姿。
何が気に喰わなかったというのだろうか、明斗の姿を目に捉えた瞬間、
主人は椅子から立ち上がり、明斗へと歩を進めた。
一歩、又一歩と近づく毎に、威圧感は重く圧し掛かってくる。逃げたい。
きっと明斗はそんな思いでいっぱいだったに違いない。しかし、
逃げる事は出来ないのだ。逃げれば、狗は野垂れ死に、生を失ってしまう。
「明斗・・・お前はどうして私に笑いかけてはくれないのだ?」
「・・・・・・」
「どうしてその様に冷たいのだ?私はお前に良くしてやっているだろう?」
「ハイ・・・ここまで育ててくださった事に感謝しています」
「そうであろう?なのに何故、何故笑いかけてはくれないのだ?」
「・・・・・・」
「いい加減に懐いても良いのではないのか!!」
バンッと痛々しい音が木霊し、主人は明斗の胸倉をキツク掴み上げ、
扉へと打ち付けた。打ち付けられた明斗は表情を一つ変えず、
その美しい漆黒の瞳で、主人を捕らえる。誰も従わせる事は出来ない。
誰も明斗の愛を受ける事が出来ないとでも言いたげな瞳で。
主人は明斗の愛が欲しくて溜まらないのだ。こんなにも美しく、
誰もが羨むような少年を手の内に入れておきながら、
心だけは手に入れることが出来ない。どんなに明斗を愛しても、
物を与えても、舞の場を設けても・・・肝心の心は空っぽなのだ。
ソレが何年も続いてしまえば、主人も怒りを募らせる事だろう。
その幾年にも重ねられた思いが、終に爆発してしまったのだ。
「お前を飼ってやっているのは誰だ!?舞わせてやっているのは誰だ!?
全てはこの私のお陰だろう!!私が居なければお前は舞う事すら出来ない!
私が居なければお前は路頭で彷徨い、野垂れ死にするのだぞ!
分かっているのか!?」
「っ・・・私を・・・親から離したのは・・・ケホッ・・・貴方だ・・・」
「黙れ!!誰に向かって口を聞いているのだ!!」
そう、明斗を親元から離したのは紛れもなくこの男だった。
貧しい者が住む村の小さな小さな家の前で舞う幼子に心引かれ、
そしてその幼子をこの男は有ろう事か金で買ったのだ。
幼子はソレまでは楽しそうに親と暮らしていたのだ。
貧しくとも心は満たされ、幸せな毎日を送っていたのだ。
それなのに、その生活を奪いさったのはこの男なのだ。
明斗の心を手に入れられないのは無理もない。自業自得なのだ。
「私は・・・全て知っているんです・・・」
「何を言う!何を知っているというのだ!!
お前の親など金を出せば、金に目を眩ませ嬉しそうにお前を差し出したのだ!
人とは所詮そんなものだ!」
「・・・う・・・そ・・・嘘だ!!そんな事信じない!!」
「えぇい!黙れ!主人に歯向かうなどとんでもない狗だ!」
「やっ!な・・・何する!?んっ―ぅぅ・・・」
男は明斗の桜色の唇に噛み付いた。
心が手に入らないのであれば身体を頂くまで。
心が手に入らなくとも、多少は満足感を抱くことだろう。
狗は主人に逆らわぬ方が懸命だったのだ。逆らわなければ起きなかった事態。
逆上した男に対抗する術も知らず、狗は犯されるのだ。逃げる事も出来ず、
明斗の心は、暗黒の闇が支配し、絶望のどん底へと突き落とされた。
信じていた親にまで裏切られた絶望・・・男に犯される悔しさ・・・
明斗の心に光が差し込む事は・・・ありはしないのだろうか・・・
後書き
やっと一話目を書きましたね。序章書いて何ヶ月経ってるんでしょうかね??
次は多分裏だと思います。主人と明斗のう゛ぅ゛っん!なシーンですかね…
面倒なら書かずに、そのまま次に進んじゃうと思います。
←Back
Next→