退屈でつまらぬ毎日






今日もまたつまらぬのであろう






私は一体何をしているのだ















全ては貴方に -第三話-
    『魅入られし隊士』

















稽古中の勇ましい雄たけびが耳に響いてくる。
此処は新撰組の屯所にある部屋の一室である。
その一室には黒髪で細身の男が物音一つ立てずに座っていた。
ただ座っているというだけだが、その男の放つ威圧感に気おされそうだ。
男は差ほど逞しいとは言えない体付きをしている。
だが、その細身に見える布の下には鍛えられた筋肉が隠れている。
この男の名は藍澤統一郎。新撰組でも一目置かれる男である。
彼の所属は新撰組零番隊である。
零番隊とは新撰組の中で最も危険な責務を任される隊だ。
言わば特殊部隊のような物で、公にも公表されていない。
新撰組の隊長である近藤勇と極僅かの者にしか知らされていない。
統一郎はその零番隊の隊長であり、別名『冷徹の藍澤』と呼ばれ、
周囲からは畏怖の念を向けられる存在である。



統一郎が座っていると、突然大きな音を立て襖が開かれた。
開かれた襖を振り返ることもなく統一郎は溜息を付いた。



「勇、もう少し静かに入って来れないのか・・・あと―」
「『急に入ってくるな』だろ?聞き飽きた。」



統一郎の自室に足を運んだ人物は新撰組隊長の近藤勇であった。
勇と統一郎は非常に仲が良く、勇は頻繁に統一郎の部屋を訪れる。
訪れるのは構わないのだが、毎度乱暴に部屋に侵入するのは止めて貰いたい。
最初は驚きもしたが、今では慣れてしまい怒る気力もない。
毎度注意はするのだが、勇も聞き入れることはなくその行為は繰り返される。
今日も何度目か分からないやり取りに呆れ返るばかりである。



「ならば気をつけろ。で、何か用事か?」
「あぁ、そうだ。お前暇だろ?俺に付き合え。」
「私の何処が暇に見える。」
「あえて言うならば全てだな。」



統一郎は今日二度目の溜息を付き肩を上げ苦笑した。
勇は毎日がつまらないと言う統一郎を連れ出すことが多々ある。
何か面白いものを見つけてはそれを教え、退屈から連れ出そうとする。
だが、そんな面白さも統一郎にとっては一瞬の出来事であり、
熱中する何かを見出すことが出来ずにいた。
昔は日本の未来を明るくするためにと燃え滾っていた。
しかし幾ら頑張れど日本は明るくなる所か汚れていく一方。
そんな世の中で自分の人生に光を差すものが見つかるとは思えない。



「今日は楽しませてくれるのか?」
「お前が何に惹かれるか分からないからな。」
「お前も懲りないな。」
「良い友を持って幸せだろ?」
「余計なことを言わなければ良い友なのだが?」



二人は眼を合わせると悪戯盛りの少年のように笑み、屯所を後にした。





+++++





二人が向かった先は極普通の酒場だった。
こんな平凡な場所に一体何があるのかと統一郎は首を傾げた。
そんな様子の統一郎に、勇は些か苦笑したが嬉しそうに口を開いた。



「統一郎!そんな顔するなよ。此処は今一番人気の酒場なんだぞ?」
「この何処にでもありそうな酒場がか?そうは見えないが・・・」
「ところがだ!!」



勇は無邪気な笑みを浮かべ、我が物顔で話し出す。
こんな勇を見るのは楽しいが、大抵は他人の噂を鵜呑みにしているだけだ。
今日もまたそんな思いつきの行動に付き合わされてしまうらしい。



「この酒場の見世物が評判でな。舞いらしいのだが・・・
 どうもその踊り子が途轍もなく美人で、舞も逸品らしい。
 俺もまだ見たことはないのだが、凄い評判なんだ!聞いてるのか!」
「あぁ、聞いている。」
「・・・その反応・・・聞いていなかったな!?」
「舞がなんだと?」



勇は明後日の方角を眺める統一郎に溜息を吐く。
先ほどの話しも耳を通る事無く過ぎていったようだ。
全くこの無関心をどうにかして改善して貰いたいものである。
統一郎を楽しませようと連れ出した勇は意気消沈だ。
だが、落ち込んで居ては何も始まらない。勇は意気込み歩みだした。
統一郎はそんな勇の後を渋々追いかけた。





店内へと足を踏み入れた二人。案内役に席へ促され後に続く。
店の作りも、他の店と比べて格段代わった点は見当たらない。
だが、店に入ってからと言うもの同じ単語を耳にする。



『今日も「魅惑の踊り子」が舞うらしいぞ』
『本当か!?来た甲斐があったな!』


『昨日の舞いも素晴らしかったな』
『あぁ。だが、昨日の「魅惑の踊り子」・・・元気が無かったな』
『うむ。何かあったのだろうか?』



どうやら勇が噂で耳にした踊り子とは『魅惑の踊り子』というらしい。
一体何がそんなに魅惑的なのであろう?
統一郎は少し思案気に廊下を進んでいった。





案内された先には豪勢な食事、酒が既に用意されていた。
そして何より一番に目を奪われたのは燃えるような赤髪であった。
上座に座る彼が噂の踊り子なのであろうか?
伏せ目がちに落とされた瞳は憂いを帯び、何処か物悲し気である。
瞳を覆う瞼の睫毛は長く、唇は桜色で艶を纏っている。
上品な腕の飾りと、下半身を隠す為の布に彩られる姿。
隠されることの無い上半身は抱きしめれば折れてしまうのではないか、
と思われる程華奢だが、よく見ればしっとりと筋肉が付いている。



――魅セラレル――



統一郎が彼に見とれていると、視線を感じたのか顔を上げる明斗。
その刹那統一郎の体にも、明斗の体にも電撃にも似た衝撃が走り抜けた。
まるで時間が止まってしまったかと思われる程長い時間二人は見つめあった。
実際はほんの数秒だったのであろう。だがその一瞬は二人にとったあまりに長かった。



「どうした統一郎?」



弾かれた様に、統一郎は視線を勇へと向けた。
普段変わることのない統一郎の表情が、驚いている。
その事実の方が勇にとっては槍が降るのではないのかと思われる程驚愕だ。
一体何があったのかと、先ほどの統一郎の視線の先を追いかける。
だがその視線の先にはあの踊り子だ。



「統一郎?一目惚れか?残念だが彼は男だぞ?」
「何を馬鹿な事を・・・」
「いやいや、俺もあまり美人さんなので驚いたがな。」



少年の様に笑んで見せた勇と共に又視線を戻す統一郎。
しかし彼の視線はまた落とされ此方を向いてはいなかった。
少々物寂しい思いを感じもしたが、気のせいだと席に着く統一郎と勇。
数刻待てば鮮やかな音色と共に踊り子は顔を上げ立ち上がった。
凛と輝くその瞳に誰もが息を呑むのが分かった。
そして明斗は不敵な笑みを一度浮かべ舞い始めた。
勇も、そして統一郎も酒を飲む事も忘れ、その舞いに見惚れていた。





後書き

お久しぶりです。なんだか、小説を書きたい気分でした。
でも訳わかんない。統一郎と黎舞君の廻り合いですね。
次はちょっと二人を絡ませてみようと思うけど何時になるかな。
夏休み中更新するかな?イラストも大量掲載されてるのでご覧ください。
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