―初めての喧嘩―
毎日毎日一緒に居たと言っても過言では無いほど離れたことが無い私達。
だが、私は今は一人で与えられた部屋に引きこもり、舞うことさえしたくない。
私達は今日、此処に置いてもらう様になって初めて喧嘩をした。
喧嘩と言っても私が一方的に怒っているだけで、私が話しかければいいのだ。
仮にも主人と従者の関係なのだから、私が怒るのはお門違い。
でも私だってされていい事と、嫌な事はあるのだ。
誰がどう言おうと関係ない。統一郎様が謝ってくるまで口を利かない。
そして私が大好きな舞うという事さえしたくない。
あれは統一郎様の為に舞うと決めたから。怒っているのに無理だ。
何があったかと言うと、差ほど大した事がなかったりするので恥ずかしい。
実は仕事付き合いで統一郎様が遊郭に出かけて行ったのだ。
仕事付き合いと言っても、私だけを見ていると言ってくれたのに…
それなのに他の…しかも女の所に行くなんて許せなかった。
許せないと言うより傷ついたのかも知れない。好きだと言われても所詮男。
統一郎様を満足させる事なんて出来ないのかも知れない。
「…と…いちろ…さまぁ。」
部屋の中で一人蹲り、考えていると目頭が熱くなった。
男なのに泣くのは情けないとは思うが、この気持ちだけはどうにも出来ない。
こんなに好きになるとは正直思っていなかったから。
止まらぬ涙を流していると、突然襖が開き、統一郎が現れた。
黎舞を見やり、その様子に呆れたといった感じで溜息を付いた。
「黎舞、何を泣く必要がある。」
「ぐすっ…向こうへ行って下さい。」
「いい加減に許してはくれないのか?」
「許すも何も、私が勝手に怒っているだけです。」
目を合わす事もせずツンと返事を返す黎舞に統一郎は冷たい目で見下している。
そんな風に見られているとは露知らず、黎舞はそっぽを向き続けている。
そうしている間にも統一郎は黎舞の元へと徐々に徐々に近づいていった。
黎舞の元へ辿り着くとスッとしゃがみ、顎を掴み無理やり目線を合わせた。
「黎舞。」
「―っ。」
心地のいい低く、甘い声で自分の名前を囁かれた黎舞は衝動を抑えきれず、
統一郎の唇へとかぶりついた。統一郎はそれに応えるように舌を絡め、
激しい口付けを交わした。離れていた所為か、短いその時間が長く感じられた。
「統一郎様…もっ…申し訳ありません。」
「否、私が悪かったのだ。辛い思いをさせたな。」
統一郎は黎舞の頭を優しく抱え込み、
子供をあやす様に背をポンポン叩いてやった。
怒った事に疲れたのか、それとも心地がよかったのか、
黎舞はそのまま夢へと陥った。
きっと、今は甘い夢を見ているに違いない。