何時も赤い月が出ていて幻想的なそこは










行き場を無くした










可哀想な僕への贈り物だったのかも知れない



























一歩足を踏み込めば





























統一郎を失って間も無くの話だった。
二人で誓った約束は果たす事が出来ず、“生きろ”という戒めだけが、
僕をずっと死から遠のけていた。一緒に生きようと言ったのに…
統一郎だけが死んで、僕だけが生きてるなんて許されないはずなのに…
でも統一郎は死ぬ間際に笑いながら“生きろ”と言ったのだ。
あの人の最後の意地悪だったのかもしれない。それが優しさなんて思いたくも無い。
死んで統一郎の下に行きたいのに、それは叶わないのだから。


そして抜け殻の様に生きている僕を見越して、館主様は言ってくれた。


『私の知人が“地獄の楽園”のマスターをしていてな、
 そこは死界と生界の狭間、幻想と現実の狭間にある、非常に不安定な所だ。』


僕はそう言って話だした館主様の話に夢中になって食いついた。
何故だかは分からないけど、縋る様にその話を聞いていた。


『己の欲望を満たせない者や、行き場を無くした者、
 可哀想な者が其処に辿り着く事が出来る。
 黎舞此処まで話してお前はもう分かっているな?』


僕は問われるままに頷いた。館主様が何を言っているのか、
この先何を言おうとしているのか、そんな事僕は遠に気付いてしまったのだ。
でも言って欲しい。その先の希望を…


『そこには、死んだ者さえ辿り着く事が出来るのだ。
 統一郎は己の欲望を満たせなかった。何か分かるな?
 お前と共に生きる事ができなかった。そして黎舞、
 お前は既に行き場を失くしている。此処はお前の居るべき所ではない。』


其処まで言うと館主様は物凄く悲しそうに顔を歪めて僕に言った。


『黎舞、お前を失うのは辛いが、お前の為だ。仕方が無いが行って来い。』


だが、その後の記憶は僕にはない。館主様が僕を気絶させて其処に送ったのだ。
何故会ってまだ一週と経っていない館主様があんな事言ったのか…


その時は分からなかった。










+++++










気が付くと其処は鬱葱と草木が生い茂る森だった。
空を見上げると夜なのか暗く、そして赤い月が僕を照らしていた。
播磨にこんな所はないので僕は不安になった。
此処が何処なのか全く持って検討が着かない。
此処に来る前に誰かと話をしていた気がするが、
誰と何を話していたのか全然思い出せない。
不思議で仕方がないが、じっとしていても埒が明かないので、
道なき道を進んでいく事にした。


暫らく歩いていて気付いたのだが、此処にはゴミ一つ落ちていない。
そして草木は一定の長さに切りそろえられていて、とても綺麗だった。
例えるなら天国と言った感じだろうか?見たことは無いが、幻想的だ。
でも何処か悲しげで、儚い。そんな事を思っていると、ふと人の気配を感じた。


僕は誰か知っている人かもしれないと、その人影のする方へと進んだ。
でも僕が目にしたのは“人”では無かったのだ。
背中に黒い羽を宿した、妖精の様な少年だった。


「おや、こんな所に人が居るなんて珍しいですね。」


「…貴方…誰?」


「僕はシェイド、闇の精霊です。貴方は?」


「…れ…黎舞。」


シェイドと名乗った少年はとても落ち着いた雰囲気を醸し出していたが、
僕はその落ち着ききった表情が少しだけ怖かった。
如何しようかとたじろいでいる僕に、シェイドが近づいてこようとした。
だが、距離を狭められるのが嫌で、僕はビクッと身体を震わせ後ろへ下がった。
するとシェイドはクスッと笑みを零した。


「怖がらないで下さい。大丈夫ですよ。」


「こっ…此処は何処なんですか?」


「此処ですか?此処はHell Heaven 地獄の楽園です。
 あぁ、少し語弊がありますね。此処は迷いの森です。」


「迷いの…森?」


「そう、此処は闇に一番近い場所。気を抜くと帰れなくなってしまいますよ?」


「…ひゃぁ!」


「ジン!!」


僕がシェイドとの会話に夢中になっていたその時だった。
突然後ろから誰かに抱きしめられて、身体をガッチリとホールドされてしまった。
人の気配なんて感じなかったし、突然の出来事だった為、僕は驚いて悲鳴を上げた。
シェイドが「またか…」と顔を顰め、僕の後ろに居る“人”に怒鳴っている。
僕は恐る恐る、後ろを振り向くと、背の高い、これまた背中に羽を宿していた。
青年は無表情だったが、僕と目が合うとニヤッと口角を上げて妖しく笑った。
その口元をよく見てみると、獣の様な立派な牙が備わっていた。


「お前旨そうだな。客じゃなかったら遠慮無く喰ってやるんだがな。」


「ちょ、離しっ…ゃ!」


「ククッ、おまけに身体はチョー敏感だ。」


「ジン!!今何て言ったんです!?お客!?如何言う事ですか!?」


「だから“客”つったんだよ。俺達の仲間になると言った方がいいかな?」


「どういう…」


困る僕をほって、二人は話しを続けている。口を挟む余裕もない。
何せ、ジンとか言う男に俺は抱きしめられたままで、
その上その手は服の中へ侵入している。厭らしくその手を彼方此方に動かし、
身体を弄ってくるのだ。
払いのけようにも力が強すぎて敵わないので、
僕は諦めてその話を聞く事にしたのだ。


「夢月から『また、私の可愛い息子が世話になるかも知れん。』と連絡があったらしい。
 んで、マスターが心配だからその辺見て来いってさ。面倒くせぇー。」


「あの人はまたそんな事を…此処を何だと思ってるんでしょう?」


「さぁな?まぁ夢月も寂しがってたし、許してやれよ。」


「ふぅ…まぁマスターの友人ですしね。多めに見てあげましょう。」


如何言う事だ?夢月って…僕の館主様の名前じゃないか。
何で此の人達が館主様を知ってるんだ?それにさっきからマスターが如何のこうのって…
マスターって誰だ???だって此処播磨の夢の館じゃないんだよね?
Hell Heavenって所なんだよね…何か頭がこんがらがって良く分からない…
というか、いい加減に此の手を…


「あ…あの、手…除けてッ」


「あぁ、忘れてた。あんまり滑滑なんでついな。」


「黎舞さんスイマセン、こいつ綺麗な物に目が無くて。」


「黎舞っつうのか?いい名前だな。」


「有難う御座います。
 あの…さっきから夢月様の名前が出ていますが…お知り合いですか?」


僕が聞くと、シェイドとジンは顔を見合わせた。目をパチクリさせている所を見ると、
どうやら驚いているのだろう。でも僕は驚かせるような事は…言ってない筈。
館主様とお知り合いかどうか聞いただけだし。そんなに驚く必要は…


「お前、夢月から何も聞いてないのか?」


「え?何がですか?」


「黎舞さん、如何やって此処に来たか分かりますか?」


「…気付いたら…此処に居ました。」


「あんにゃろ…何も教えずに放り込みやがったな。」


「此れで此処に居る理由も納得しましたね。何で楽園まで送り届けないんでしょう?」


「夢月の事だ。面倒くさがってたんだろう。」


「全く…いい加減な。」


「え?え?」


其処まで言うとジンは大きく溜息をつき、僕に手を差し出してきた。
その手を取ったら何か変わってしまいそうな気がした。
此の人達の様に羽が生えるのかも知れない、人間じゃなくなるのかも知れない。
そう思ったら怖かったけど、ジンも、シェイドもとても優しそうな顔をしている。
そして、此の人達の口から館主様の名前も、話も出てきたのだ。
僕の何かを変えてくれるのは…もしかしたらいい方向に向かうかも…
躊躇いながらも僕はジンの手を取った。すると二人は僕を連れ、空高く舞い上がった。
不思議と怖くはなかった。何故だか、少しだけ希望の光が見えた気がした。










+++++










暫らく空の旅を楽しんだ僕は、小さな家の前に連れて来られた。
其処にはとても信じられないような人物が立っていた。
他にも四人その場に居たのだが、僕は気にも留めていなかった。
そして、存在しない筈のその人が居る事さえ、僕は気にも留めなかった。
だって、ずっとずっと会いたいと思っていたから。そんな事気にならない。


「統一郎!!」


僕はジンがゆっくりと地面に下ろしてくれると、統一郎目指して、
一目散に駆け出した。一秒でも早く僕を抱きしめて欲しかったから。
一秒でも早く、その愛しい声で、僕の名前を呼んで欲しかったから。


「統一郎!統一郎!統一郎!」


「何だ黎舞、子供の様に喚き散らして。」


「だって!だって!!」


「分かったからもう泣き止め。私はお前の泣き顔など見たくない。」


「ハイッ―っ…」


僕は返事をしたはいいが、泣き止む事ができなかった。
此の流れてくる涙を止めようにも、感情とは裏腹に涙は溢れかえってくる。
統一郎は僕を優しく包み込んで、赤子をあやす様に僕を慰めてくれた。
その腕の中に居ると、とても落ち着いて、気持ちがいい。
そして、聞こえるはずのない音が聞こえてきて、それも心地が良かった。
心臓の音…生きている温もり…こんなのあり得ない筈なのに…


僕はやっと落ち着いて、急に恥ずかしさに見舞われた。
辺りを見渡すと、皆嬉しそうに微笑んでいる。
中には見たことない“人”が三人居たけど、その人も笑っていた。
一人は嬉しそうに涙を流し、ジンにしがみ付いていたけど。


そして、その中で一人、悲しそうに顔を顰めている人が居た。
館主様だ。何故このような知らない場所に居て、悲しそうにしているんだろう。


「…館…主様?どうして此処に?」


「お前が無事此処に辿り着けるか待っていたんだよ。」


「あ!そうだ夢月!迷いの森なんかに黎舞を放り込みやがって!」


「ジンクスもそう怒るな。私は試していたんだよ。」


「そうだ、アレは私が館主に頼んだのだ。
 少しでも生きたいという迷いの心があったならば、此処には辿り着けぬ。」


「統一郎は、黎舞に生きて欲しかったからな。だから記憶を消し、
 あえて迷いの森に黎舞を残してきたのだ。分かってやってくれないか?」


「…そうだったのか。」


「もぉージンは早とちりさんですねぇー。」


「五月蝿いぞナイトメア…」


全く此の人達はどうして、当事者である僕をほったらかしにして話しを進めるんだろう。
統一郎も統一郎だ。一緒に生きると約束したのだから、僕に迷いなんてない。
死んでいても一緒に居られるのだから、僕はその道を選ぶに決まっている。
…と言うか…先程から違和感を感じるのは気のせいだろうか…統一郎が…
少し若く見える。皺だって少ないし、声も何時もより渋みがないような…


「何だ黎舞、私の顔に何かついているのか?」


「いっ…いえ、唯…」


「あぁ、黎舞、統一郎が若くなってるから戸惑っているんだろう?」


「あ、ハイ。」


「ハハハッ!そう言う事か、確かに五つ程若返ったな。」


「え?」


僕が如何言う事か分からずに戸惑っていると、髪の長い…
目の色が片方ずつ違う人と目があった。何が可笑しいのかクスクス笑っている。
此処は本当に不思議な雰囲気を持つ人が多いな。ナイトメアって呼ばれた子も、
羽があるし、シェイドの隣に立っている赤毛の子も羽がある。
しかも皆可愛かったり、格好良かったりするし…美形揃いだ。


「黎舞君、私は地獄の楽園のマスターをしている者だ。よく此処へ来たな。
 色々戸惑う事もあるだろうから、使い魔から説明を聞いてくれ。」


「マスターは、私の友達でもある。お前はこれから、此処に住まう事になる。
 きちんとマスターの言う事を聞いて、きっちりと働くんだぞ?」


「え?」


「さて館主よ、久々に会ったしお茶でも飲まないか?」


「そうだな。じゃ、後は頼んだぞ。」


何て自分勝手な人たちだろうか、面倒くさくなると直ぐに何でも人に任せて…
僕は軽く溜息をついて、後ろを振り返った。すると目をキラキラと輝かせ、
僕を見つめている“人”が約二名程…何がそんなに嬉しいのか、
二人とも話したそうにウズウズとしている。…か…可愛らしい事この上ない。


「あ…あの、如何したの?」


「あ、ウチはナイトメアって言いますぅーv宜しくですぅ!」


「僕はクルアルって言います!ねぇ黎舞さんって言うんですよね?」


「え、あ、ハイ。」


「そんなに緊張しないで下さい!これから僕達一緒に働くんですから!」


「そうだぜ黎舞?そんなにビクビクしてると喰っちま―


「何だジンクス、その先を言ってみろ?」


 …なんでもねぇーよ。」


「ジン!ウチが居るのにそんな事言うんですかぁ!」


「あぁー!分かった!分かったから泣くな!」


やっぱり話しが進まない。此の子達…ナイトメアちゃんとクルアル君が、
自己紹介をしたかったのは分かるとして…何故話が流れていくのだろう?
僕がビクビク怯えているのがいけないのだろうか?そんな事言われたって、
初対面の人にどう接していいのかなんて分からないし…
そして、相変わらずジンクスさんは、僕の事妖しい目で見てるし…
統一郎が庇ってくれるのは嬉しい事なのだが、何で統一郎が若いとか、
あと一緒に働くとか、此処がどういうところなのかを説明して欲しい。
そうでないと、僕はこの先どうしていいのか分からないし。


「統一郎、そろそろ若い理由とか説明して欲しいんだけど…」


「あぁ、悪かったな。説明すると長くなるのだが…」


「えぇー!統一郎面倒臭そうな顔しちゃ駄目でしょー?」


「そうです。此処は僕が説明さしていただきます。」


こうして、シェイドが説明役を買って出て、僕に詳しく説明してくれた。
此処では、死者は好きな年齢で過ごす事ができ、統一郎は少し若くしたらしい。
歳をとると色々身体に負担がかかるからだそうだが、あのままでも、
僕は統一郎はやっていけたんじゃないかな?と思った。だって…
僕より年上なのに、僕よりも活発に動いていたし、筋肉も凄かったし…


そして、此の楽園の事や、僕がこれから此処で働く事などを説明してもらった。
シェイドは淡々と説明してくれたけど、とても分かりやすかった。
その説明に口を挟むように、ナイトメアちゃんとクルアル君が質問をしたりと、
此の楽園が凄く楽しくて、今までに無いような温もりを与えてくれる所だと、
少しの間しか居ないけど感じることが出来た。だって、統一郎も笑ってる。
しかもあんなに優しそうに…


何だか僕も嬉しくなって笑ってしまった。
すると皆も顔を見合わせて嬉しそうに笑ってくれたんだ。


「Hell Heavenへようこそ。


 さぁ、俺たちと一緒に楽しい生活を始めようぜ?」


ジンクスが言い、統一郎が手を差し伸べてくれた。
僕はその手を取り、輪の中に一歩足を踏み込んで、新しい生活をスタートさせた。





もう何も怖くない。





失う事もない。





こんなにも沢山の仲間が出来た。





愛する人と永遠という時を過ごす事もできる。





僕は今…





幸せです。










後書き

何が書きたかったんだろう?林檎ちゃんゴメンナサイ!!!
きっと土下座しても許してもらえない長さだよね!!
もっと短くしろよ!みたいな…兎に角絡めてみました。
うひぃ…一周年記念企画にリクエストして頂き有難う御座いました。
今後も刹那に散る詩を宜しくお願い致しますねv